カンボジアの不動産市場は、その魅力的な投資機会や成長の可能性から、多くの会社経営者や投資家、そしてファミリー層の関心を集めています。しかしながら、この活気ある市場に足を踏み入れる際には、正確な情報と深い理解が欠かせません。日本で事業を行っている経営者の方は、現地法人を設立することも考えるかと思います。
そこで、今回は税制面でとても優遇されているカンボジア新投資法で設立する法人、現地法人、さらに法人と個人の税制の比較まで。また不動産投資には欠かせない不動産登記にかんする留意点をご説明して参りたいと思います。
目次
1. カンボジア新投資法とは
(1) 新投資法の施行
カンボジアには、カンボジア政府が外資の投資を呼び込むため、自信の国の成長を促すために制定した法律 ”LAW ON INVESTMENT (2021) -新投資法- ” があります。
2021年10月15日に施行されたこの法律は、カンボジア人及び外国人による質の高い投資を効果的かつ実行的に誘致・促進するための開かれた、透明性・予測可能性が高い法的枠組みを確立することを目的としています。
新投資法は、カンボジア開発評議会(CDC)または州・特別市投資小委員会に登録された「適格投資プロジェクト(QIP)」、「適格投資プロジェクトの拡大プロジェクト(EQIP)」及び「投資保証のみを受ける投資プロジェクト(GIP)」に適用されます。採用されたプロジェクトは、法人税の優遇措置も適用されるので、投資にはとても有利です。
また、プロジェクトの申請は適格投資プロジェクト登録用のオンライン プラットフォーム を通じて申請をする必要があり、ペーパーレスにすることで、対面での取引がなくなり、透明性を高めています。特に、経済特区への促進を図るため、登録から輸出入までワンストップサービスで行われています。
また、心配されがちな送金についても記載があり、”投資家は、適用法令に従い、許可された金融中継システムを通じて自由に外貨を購入し、 投資に伴う金融債務の履行のためにそれら通貨すべてを本国に送金する権利を有する。これ らの送金には以下が含まれる。 ”とあり、リターンの部分を自由に日本に送る事が可能です。
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(2) 新投資法を利用した税制優遇
カンボジアの新投資法を利用して享受できる税制優遇はたくさんのパターンがあります。
プロジェクトによっても優遇率は違っていて、優遇率の一番高い”グループ1”のプロジェクト例は、
<農業・水産業分野>
◆ 小型四足動物:50万米ドル以上または500頭以上
◆ 大型四足動物:100万米ドル以上または300頭以上
<サービス業分野>
◆ 中等教育:100万米ドル以上
◆ 高等教育:400万米ドル以上
◆ 物流センター事業:1,000万米ドル以上
<製造業分野>
◆ 電子機器・光学製品の製造・組立:50万米ドル以上
◆ 自動車の製造・組立:200万米ドル以上
◆ 自動車車体・トレーラー・セミトレーラーの製造・組立:100万米ドル以上
◆ 農業・林業・農産業・食品加工用の機械:50万ドル以上
<インフラ業分野>
◆ 経済特区・中小企業クラスター・工業団地の開発:関連法令の要件を満たす場合
◆ 土木建設プロジェクト(道路、橋梁、鉄道など):法令の要件を満たす場合
◆ 発電所の建設:1,000万米ドル以上
他にもたくさんプロジェクトはありますが、カンボジアらしいプロジェクトを挙げております。その他にも、現地人の採用割合や諸々条件はたくさんあるのですが、このグループ1のプロジェクトに投資をすると、なんと法人税が9年間も免税されるのです。また、9年の優遇措置終了後、3年にわたって法人税が減税されます。それ以外にも、輸出入にまつわる関税の免税やVAT税の免税等、免税のオンパレードです。
それだけ、誘致を一生懸命行っているという事は、まだまだ自国の産業が根付かないという事の現れなのですが、政府が主導して早くカンボジアを貧民国から中間国へ押し上げる為に、外資の投資なしには成長できないという自覚があるので、このような面からも送金規制や投資規制の法案はかわらないと考えています。
(3) 送金に関して日本と結ばれた協定とは⁉
企業にとって大切な送金についても触れていきたいと思います。
当時の首相である、故安倍元首相とフン・セン元首相によって「投資の自由化、促進及び保護に関する協定(Agreement Between Japan and the Kingdom of Cambodia for the Liberalization, Promotion and Protection of Investment)」という協定が両国間で結ばれました。2008年に発効され今も続いています。中身を一部抜粋します。
投資法は、次のとおり投資保障を規定している。
◆ 外国人投資家は、土地所有権を除き、投資家が外国人であることのみを理由にした差別的な扱いは受けない。
◆ カンボジア政府は、カンボジアにおける民間投資家の資産に悪影響を及ぼす国有化政策は実施しない。
◆ カンボジア政府は、QIPの製品価格やサービス料金に対し統制を行うことはない。
◆ カンボジア政府は、投資家が銀行を通じて外貨を購入し、次の目的のためにその外貨を海外へ送金することを許可する。
◆ 輸入品の代金、もしくは国際的な借入に対する元金・利息の支払い
◆ ロイヤルティー、および管理費用の支払い
◆ 利益の送金
◆ 投資資本の本国送金
このように、両国間での送金に関しては守られた状態であり、長い内戦後の復興に日本がたくさん支援している事、現在の岸田首相に変わり、カンボジアは、フン・マネット閣下に交代した後も、友好関係は続いてる事からカンボジアの経済が安定的に発展を終えるまで失効することはないと考えています。
2.カンボジア現地法人設立との違いについて
(1) 現地で設立可能な法人
先ほどまでご説明した新投資法に則っての現地法人は、とても規模が大きいものになり、大企業向けの開発等を想定した法人となりますが、個人レベルで現地で飲食店や旅行業にチャレンジしたい方にも現地法人が開設可能です。
法人の種類は豊富で、下記になります。カンボジアの外国投資関連法制度は、積極的に外国投資を奨励するように設計されてる為、外国法人は土地所有等を除き、基本的にカンボジア内国法人と差別なく扱われており、多くの分野で自由に投資することが可能です。
<現地法人>
有限責任会社で3タイプあり、外国人または、外国企業の100%出資で設立が可能です。
株主の数や株を発行する事が可能か不可能かでタイプで変わります。
<パートナーシップ>
各個別の法人格とパートナーシップという形で出資をします。有限責任タイプか無限責任タイプの2形態があり、責任の限度が変わってきます。
<支店>
カンボジア以外で事業を行う会社の一部として事業活動を行う事が出来、現地法人と同様の課税義務が発生します。
<駐在員事務所>
営利目的の事業活動を行う事ができないが、代わりにVAT・法人税は課税対象外となる。
<個人事業主>
1社1事業の制限がありますが、法人登記よりも手続きが簡便で、設立コストもかかりません。商業省で個人事業主の登録が可能です。
現地での会社設立サポートは弊社でも対応しており、税理士や弁護士先生の紹介が可能ですので、お気軽にお申し付けくださいませ。
(2) 各省庁でのお手続き
事業内容を確定し、法人の形態を決めたら、お手続きになります。大きく3つのステップにわかれており、まずは、商業省への商業登記申請を行います。商号予約費用は、商号一つにつき 25,000 リエル(約 6.25US ドル)です。
次に、租税総局での認証を行い、納税者番号を取得します。税務登録費用:400,000 リエル(約 100US ドル)になります。
最後に、労働省での登録申請を行います。従業員を雇用した場合は、その従業員の登録も行います。事業所開設申告:120,000 リエル(約 30US ドル)となります。
また、以下の業種は別途各省庁への登録が必要となります。
<観光省へ登録が必要な業種>
飲食店、ホテル・ゲストハウス 、旅行代理店
<経済財政省へ登録が必要な業種>
不動産サービス業、保険代理店、ブローカー業
<教育・青少年・スポーツ省へ登録が必要な業種>
教育関連
今までこれらの申請を紙ベースで提出しており、審査登録にも3-4ヶ月と要していましたが、2020年からオンラインシステム(英語・日本語・中国語に対応)に変更になり、手続きの透明化を促進し、不備などがない限り、ワンストップで手続きが可能となりました。法令上は、申請後 8 営業日以内に登録が完了すると想定されているそうです。
また、設立に関する支払いはABA PAYで支払う事ができ、振り込みなどの手間も省けるだけでなく、金銭のやり取りも透明化されております。このような取組みも、カンボジアが中高所得の国としてコンプライアンスの意識を高めている事の現れです。
▼会社設立申請のオンライン・システム
Registration Services
▼法人設立に関してJARECOホームページ
(3)個人法人の税制について確認
個人に関する税制について
そして、カンボジアでは個人の収入を包括的に管理する制度(日本でいう確定申告制度)の存在がなく、カンボジア居住者に関しては、給与に対してかかる給与税(日本でいう所得税)で毎月納める事となっています。
他にも、付加給付に関してはフリンジベネフィット税があり、利子・配当所得に関しては、運用口座から6%(非居住者の場合14%)の源泉されて入金があります。不動産所有者には物件評価額に対して0.1%の固定資産税も存在しています。消費に対してはVAT税といって、日本でいう消費税のような制度があります。
とてもシンプルでこれ以上納める税金がありません。
不動産収入も個人間での賃貸に関しては税金がかからないようになっております。
法人に関する税制について
一方で、法人に対しては、数々の税制が設けられております。さらに月次報告となりますので、毎月納税となります。
代表的なものでいうと、前払事業所得税、給与税、フリンジベネフィット税、付加価値税、源泉徴収税が毎月報告となります。不動産賃貸業という毎月の収入が安定していたりすると法人契約でも簡単に申告できるかもしれませんが、飲食業や小売等金額の出入りが多い業種は事業をやりながら月次報告もするとなると負荷がかかりますので、留意する必要があります。
また、源泉徴収税に関しては居住者/非居住者によって税率が変わってきます。金利や配当に対する税率は、居住者が6%なのに対して非居住者は一律14%になります。その他、給与等も居住者/非居住者で同じように税率が違うので、現地で人材を採用する場合は留意ポイントとなります。
不動産収入に関しては10%の源泉がされ、売却に関しては14%の課税となります。
3. 不動産登記についても確認
(1)ソフトタイトル (Soft Title) って?
カンボジア不動産の情報収集を行っていると、日本では聞き馴染みのない” ソフトタイトル”という言葉を耳にします。
ソフトタイトルとは 不動産がある地区町村の長が新旧所有者の売買契約書を公証役場にて公証した書類です。日本人が想像している不動産権利書とは違って、不動産所有権移転履歴の記載もなく、証明書としての効力も弱く、何かあった時の対抗要件とはなりません。その様なことから、悪意ある売主がその土地のソフトタイトルをもって、数人の売主に重複販売する事も可能で、事件につながるケースもあります。現在、政府はソフトタイトルからハードタイトルへの移行を勧めております。
(2)ハードタイトル (Hard Title) って?
一方で、ハードタイトルはMinistry of Land Management, Urban Planning and Construction (Cambodia)という土地管理・都市計画・建設省が発行しています。登記が完了すると、登記簿の記載内容を掲載した証明書が発行されます。実務上これを”ハードタイトル”と呼び、日本の登記簿謄本のように現所有者はもちろん過去不動産所有権移転履歴や抵当権、賃借権等の権利関係も記載され、こちらは”ソフトタイトル”と違い、第三者に主張するための対抗要件となります。
ハードタイトルにも偽造、再発行による失効等もありますのでご自身で登記所にてご確認いただく事が一番安心です。銀行の抵当権がついている場合は、銀行に保管されているケースもあります。
弊社では、基本的に登記をオススメしておりますが、短期で転売をされる方は、転売時に既存のオーナー様が登記名義変更料を負担するケースが多い為、登記をあえてされない方もいらっしゃいます。
また、長期で登記をされていないと、ペナルティーが発生することもありますので、ご注意ください。
販売の仲介業者の登記経験がなく、トラブルの元になるケースもございますので、“誰から買うか”は長期でカンボジア不動産を所有頂くにあたり、重要なポイントとなります。
(3)区分所有登記も可能
基本的に、土地は外国人や50%以上の外資の法人は購入ができませんが、2階以上のコンドミニアムなら外国人でも購入が可能です。カンボジアでは、建物は原則として独立の不動産としては認定されず、土地の構成部分とされる為、建物登記は存在しませんが、前述のハードタイトルを取得済みのコンドミニアムなら区分所有登記ができ、区分所有のハードタイトルが発行されます。
▼参考リンク
JICA記事:カンボジアの不動産登記について
JETOR記事:カンボジアにおける不動産取引に関する留意点
4.まとめ
今回の記事では、カンボジアの投資方法や、登記についてご案内してきました。
投資環境を整えて、外資の呼び込みを頑張っているカンボジアの新投資法は、税制面の優遇などとても魅力的でした。しかし、個人規模での投資というよりも、資本の大きな企業が工場を作るなど大規模投資であることがわかりました。
もう少し小規模にカンボジアに進出したいという方向けにも、カンボジアはオープンで、100%外資資本でも現地法人の設立が可能でした。しかしながら税制面では個人の方が優遇されていて、そのあたりをうまく利用して企業を検討するのがよさそうです。
総括すると、不動産投資目線では、法人所有だと税負担が多く個人での投資の方がメリットが大きそうです。
今回、最後にご紹介させていただいた、不動産登記についてですが、これまではこのハードタイトルの発行に2-3ヵ月を要していたのですが、この度不動産登記についても電子化され、移転登記が数時間で可能になるとクメールタイムズで発表されています。また、オンラインでの閲覧も可能になるという事で、今後より土地取引も透明化されていきます。
今まで、カンボジアでの投資というと”怪しい”というイメージが強かったですが、政府主導でより透明化され、投資環境が良くなっていきます。益々成長していくカンボジアから目が離せません。
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